メンタルヘルス

気分障害について

「気分障害」と呼ばれるものには、うつ病性障害(うつ病)や双極性障害(躁うつ病)などが該当します 。そこで、まずは「医学的な分類」・「疫学」・「病因」・「病態仮説」等について述べたいと思います。

気分障害の分類:

ICD-10では主として「従来の躁うつ病に相当する躁病エピソード、双極性感情障害、うつ病エピソード、反復性うつ病障害と、従来、器質・人格の障害とされていた持続性気分障害とから構成されている。」1)『「気分(感情)障害における基本障害は気分または感情の変化で、それは通常は抑うつ(不安を伴うことも伴わないこともある)または高揚elationの方向に向かう。この気分変化は通常活動レベルの全般的な変化を伴い、そのほかの症状のほとんどはこういったきぶんと活動性の変化から二次的に生じたものか、あるいはそれらと関連で容易に理解できるものである。これらの障害の大部分は反復性に起こる傾向があり、個々のエピソード(病相期)のはっしょうにはストレスとなる出来事または状況が関連していることが多い」』2)とされている。また、『気分障害の分類、用語、発病のメカニズムついては、国際的になお十分な意見の一致がみられていない。ICD-10も、「この疾病を誰もが十分納得するような形で分類することはできない」』3)としており、「躁うつ病とよばれてきた内因性精神病を含むが、これよりも広い概念で、既知の器質性因子によるもの以外のすべての気分障害を含んでいる。」4)としている。

疫学:

日本においては1960年頃の調査では気分障害(躁うつ病)の一般人口における出現頻度(有病率)は統合失調症よりも低く、0.36%(東京大学精神医学教室調査1941~1943)とされていた。1963年の厚生省精神障害実態調査では気分障害(躁うつ病)は人口1000人に対し0.2人とされた。1970年代後半より症例収集法の明確化、DSM,ICDなどの標準や診断基準や構成的面接法の使用などの元で近代的疫学研究がおこなわれるようになった。

「気分障害の男女比は従来から1対2で女性の方が多いが、双極性障害では男女差は少ないとされている。DSM-Ⅲ-Rを持ちいた研究でも非双極性うつ病の1年有病率は男性2.8%~17.7%、女性5.4%~12.9%、生涯有病率は男性11.0~12.7%、女性14.8~21.3%と報告されている。また、同研究では発症年齢は10歳代、20歳代が多く両年代で約70%に達する報告もある」5)とされている。近年うつ病が増加していることは、非双極性うつ病の生涯有病率が1990年以降の調査で増加していることから推測できる。今後はうつに罹患しやすい高年齢人口の増加、抑うつ反応を起こす環境ストレスの増加、抑うつ反応を起こす慢性身体疾患の増加、うつ病を起こしやすい薬剤の広汎な使用などといった身体・心理・社会的条件により、うつ病の有病率はさらに増加するだろうと推測される。

病因:

①遺伝、②パーソナリティと誘因、③身体因、④病態生理の4つが挙げられる。気分障害が種々の精神的・身体的負担加重を契機に発病する場合があると古くから知られており、病前人格や精神的・身体的誘因が重要であると強調されてきた。一般に内因精神病においては遺伝素因が強力な場合は誘因がなくても発病し、素因が弱い場合いには精神的・身体的負荷が加わって初めて発病するとされている。遺伝学の研究は家族研究と双生児研究においてエビデンスが蓄積されている。家族研究では、発端者の親族の有病率(単極型)は11.0%~14.9%であり、対照群の4.8%~7.3%を大きく上回る。双極型では3.7~17.7倍と極めて高い。但し、「決定的なものは見いだせていない。」6)

病態仮説

気分障害は内因性の病気と考えられ、何らかの脳の機能障害があり、それが病気のなりやすさを形成しているとされている。遺伝要素も関与していると考えられる。また、いわゆる病前性格もなりやすさの一部に関与している。「気分障害の病因・病態は生物学的、心理学的、社会学的に統合されたものと考えられている」7)

生物学的成因・病態研究の現状としては「モノアミン欠乏仮説やモノアミン受容体感受性亢進仮説」8)が提唱され、うつ病でも視床下部-下垂体-副腎皮質系障害仮説などが生まれた。」9)とされている。また、1970年代にはリズム異常仮設が生まれ、最近では脳の血流や糖代謝の異常などが報告されており、うつ病患者の血中BDNFが低値のためBDNF仮説などもある。

病前性格の研究では「双極型における循環気質や単極型における執着性格、メランコリー親和型性格が有名である」10)とされている。

誘因の存在率は誘因をどのように定義するかによってことなるとされているが、広義の誘因としては男子では仕事の過労、職務異動、精神的打撃、経済問題など、女子では妊娠、出産、月経、身体疾患、近親者の病気、死、家庭内葛藤などが多い。人生のライフイベントも関係する。

症状:

身体症状では、睡眠障害、食欲の変化、体のだるさが挙げられる。その他の諸症状としては、頭全体が重く痛む、胸が締め付けられて息苦しい、いつも咽喉が乾き軽い吐き気がある、性欲の減退などが挙げられる。精神症状としては、関心・興味の減退、意欲・気力の減退、知的活動の減退、その他として無気力や自責感・罪責感・自信喪失・不安・焦燥感や易怒傾向、逆に悲哀感や寂莫感などがある。

治療方法:

以前は電撃療法、持続睡眠療法などの対症療法がおこなわれてきた。昨今はアミン代謝、その他神経伝達物質に影響を与えることを目的とした薬物療法が盛んにおこなわれている。気分障害の治療には、個々の病相の治療と病相再現の予防と2つがある。現在は主として個々の病相に対する治療法が行われているが、究極的には病相再現予防法が確立されることが理想であり、予防療法も着実に進歩している。

うつ病の治療には薬物療法、電気ショック療法、精神療法、生活指導がある。

精神療法とは心理的交流をベースとして当事者の精神活動に変化をもたらす治療法である。言語の使用の有無や集団か個人かなどさまざまなパターンがあり、認知行動療法や訓練療法などが挙げられる。また、精神保健及び精神障害者福祉に関する法律第1条の目的条文では、「その社会復帰の促進及びその自立と社会経済活動への参加の促進のために必要な援助を行い」8)とあるとおり、社会復帰療法としてSSTでの社会復帰訓練(地域に出ていき、様々な経験を積むこと)や地域障害者職業センターをはじめとした行政のサポートの充実が求められると考える。

認知症との関係

高齢者に似られる気分障害には、これ医になる前に初発したものと高齢になってから起こったものとある。高齢に社のうつ病では、MRIなどの脳画像検査を行うと、微小な脳梗塞像や脳白質、脳皮質の萎縮像が健常者よりも高率に見られる。血管性うつ病という言葉もある。認知症との鑑別は、うつ病は質問に答えようとする態度がみられ、時間をかけて松と正しい回答があられること、抗うつ薬療法で改善が可能である。

[引用文献]

  1. 大熊輝雄著『現代臨床精神医学』金原出版2022年P386
  2. 同上P370
  3. 山下格著『精神医学ハンドブック』日本論評社2022年P79
  4. 大熊輝雄著『現代臨床精神医学』金原出版2022年P370
  5. 同上P372
  6. 精神保健福祉士養成セミナー編集委員会編集『精神医学-精神疾患とその治療』へるす出版2017年P107
  7. 精神保健福祉士養成セミナー編集委員会編集『精神医学-精神疾患とその治療』へるす出版2017年P106
  8. 同上P107
  9. 同上P107
  10. 同上P107
  11.  
  12. 厚生省ホームページ『知ることからはじめようみんなのメンタルヘルス』

https://www.mhlw.go.jp/kokoro/know/disease_into.html  2022年5月29日時点

3) 山下格著『精神医学ハンドブック』日本論評社2022年P103

4)  

[参考文献]

・大熊輝雄著『現代臨床精神医学』金原出版2022年

・厚生省ホームページ『知ることからはじめようみんなのメンタルヘルス』

https://www.mhlw.go.jp/kokoro/know/disease_into.html  2022年5月29日時点

・山下格著『精神医学ハンドブック』日本論評社2022年

・『精神神経学雑誌 = Psychiatria et neurologia Japonica109巻2号』日本精神神経学会2007年 P189-P193松岡洋夫著『専門医制度委員会企画(第10回)統合失調症』

・金生由紀子・下山晴彦編『精神医学を知る メンタルヘルス専門職のために』東京大学出版会2009年

・精神保健及び精神障害者福祉に関する法律

精神保健福祉士養成セミナー編集委員会編集『精神医学-精神疾患とその治療』へるす出版2017年

・精神保健福祉士養成セミナー編集委員会編集『精神保健福祉の理論と相談援助の展開Ⅱ』へるす出版2021年

・計見一雄著『統合失調症あるいは精神分裂病』講談社2017年

・阪上正巳著『音楽療法と精神医学』人間と歴史社2015年

・井原裕・松本俊彦著、よくしゃべる精神科医の会編『くすりにたよらない精神医学』日本論評社2013年

・山下格著『精神医学ハンドブック』日本論評社2022年

・糸川昌成監修『統合失調症からの回復を早める本』法研2013年

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