社会福祉

アディクション問題について

アディクションとは

アディクションとは、自制できなくなるほどの依存症であると考えています。薬物やアルコールなど物質に対して自制できない程にのめり込んでいる状態であると国際的に定義されています。一方で昨今では、「ゲームやギャンブルなど特定の行動に対する自制できない程度ののめり込み(行動嗜癖)を含めた、アディクション(addiction)が近年大きな社会問題となっている。」1)とされています。日本におけるアディクション症の推定患者数は、「薬物(覚醒剤・麻薬・大麻)依存症者数 10 万人、アルコール依存症者数 80万人、ニコチン依存症者数 1800 万人、そしてギャンブル障害者数 320 万人と非常に多いです。さらに成人のインターネット障害者数は 420 万人」2)と推計され、非常に多いことが危惧されています。

日常生活はもちろん、就労に関しても問題となることが多いです。無断欠勤や頻回欠勤、長期欠勤者にはアディクション問題を抱えている当事者も多いと考えます。また、周囲に対しても影響を及ぼすような本人の生産性低下や業務怠慢、労災事故誘発などの問題もあります。職場におけるアディクションの対応は主としてアルコール問題や喫煙が挙げられますが、その他としてギャンブル、薬物、買い物、性行為の問題やなど表面化されていないものもあります。また、最近ではインターネット依存(スマホ依存)により、生活リズムの崩れから生活習慣病にも影響を及ぼしているとされています。

アディクションの様態

アディクションの様態は様々ですが、①物質嗜癖、②プロセス嗜癖、③人間関係嗜癖、の3領域に存在すると言われています。具体的な説明は次の通りです。

①物質嗜癖

アルコールや薬物といった精神に依存する物質を原因とする依存症状のことを指します。

②プロセス嗜癖

物質ではなく特定の行為や過程に必要以上に熱中し、のめりこんでしまう症状のことを指します。

③人間関係嗜癖

人と人との境界線や距離感という「関係性」に対して、個性で表現できない社会通念を超えた脅迫概念にある状態を指すとされています。

上記3領域に共通していることは、「繰り返す、より強い刺激を求める、やめようとしてもやめられない、いつも頭から離れない」などの特徴がだんだんと出てくることです。アディクションを構造として理解するときには「花咲く木」がメタファとしてよく使われています。この構造からわかるのは「咲いた花を摘んだとしても、木の根っこに背景的要因があり、それを抱えて生きる上で身につけた主体がある限り、生きる上で必要になる“酔い”を求め続け、花を咲かせ続けるということです。」3)と、様態のみ修正しても改善は望まれず、背景的環境や社会的環境を含めた治療や支援が必要とされています。

 但し現状は、社会的に『「依存・嗜癖は自己責任」のように、患者を白眼視する風潮が多く残っており、周囲に依存・嗜癖であることを告白できない潜在的なアディクション症の患者数は膨大な数であると推測され、治療や対策の大きな妨げになっている。』4)との事に加え、「アディクションの実態調査が不充分であること、アディクション症の根本的な病因の解明ができておらず、病因に直接的に作用する治療薬や治療法の開発が困難であること、アディクション症の対象および病態が大変複雑であり、不均一な患者を対象として臨床研究や治験が行われてきたことなどが挙げられる。」5)とされています。

今後求められること

今後求められることは「アディクションの現状を正確に把握し、その上で、社会の変化とともに将来変化していくであろうアディクションの現状にも柔軟に対応できるような包括的な予防・医療・研究・教育体制を構築することが肝要である。」6)とされています。つまり「アディクションは、福祉・医療・心理・教育・更生保護・地域・産業領域の現場に横断して見られる課題であり、援助職が取り組むべきソーシャルワークの課題」7)と考えます。

[引用文献]

1)日本学術会議 日臨床医学委員会アディクション分科会、脳とこころ分科会、基礎医学委員会神経科学分科会『アディクション問題克服に向けた学術活動のあり方に関する提言』日本学術会議令和2年4月15日p5(iv要旨)

2)日本学術会議 日臨床医学委員会アディクション分科会、脳とこころ分科会、基礎医学委員会神経科学分科会『アディクション問題克服に向けた学術活動のあり方に関する提言』日本学術会議令和2年4月15日p8_1

3)山本由紀編著・長坂和則著『対人援助職のためのアディクションアプローチ 依存する心の理解と生きづらさの支援』2015年p51

4)日本学術会議 日臨床医学委員会アディクション分科会、脳とこころ分科会、基礎医学委員会神経科学分科会『アディクション問題克服に向けた学術活動のあり方に関する提言』日本学術会議令和2年4月15日p8_1

5)日本学術会議 日臨床医学委員会アディクション分科会、脳とこころ分科会、基礎医学委員会神経科学分科会『アディクション問題克服に向けた学術活動のあり方に関する提言』日本学術会議令和2年4月15日p8_1

6)日本学術会議 日臨床医学委員会アディクション分科会、脳とこころ分科会、基礎医学委員会神経科学分科会『アディクション問題克服に向けた学術活動のあり方に関する提言』日本学術会議令和2年4月15日p5(iv要旨)-6(v要旨)

7)山本由紀編著・長坂和則著『対人援助職のためのアディクションアプローチ 依存する心の理解と生きづらさの支援』2015年p30

[参考文献]

・精神保健福祉士養成セミナー編集委員会編集『精神保健学』へるす出版2019年

・精神保健福祉士養成セミナー編集委員会編集『精神医学-精神疾患とその治療』へるす出版2017年

・日本学術会議 著『学術の動向25巻5号提言要旨「令和2年4月15日臨床医学委員会アディクション分科会、脳とこころ分科会、基礎医学委員会神経科学分科会アディクション問題克服に向けた学術活動のあり方に関する提言」』公益財団法人日本学術協力財団2020 年 p. 5_94

・日本学術会議 日臨床医学委員会アディクション分科会、脳とこころ分科会、基礎医学委員会神経科学分科会『アディクション問題克服に向けた学術活動のあり方に関する提言』日本学術会議令和2年4月15日

・山本由紀編著・長坂和則著『対人援助職のためのアディクションアプローチ 依存する心の理解と生きづらさの支援』2015年

・樋口進・廣尚典編集『職場×依存症・アディクション』南山堂2019年

・榎本稔著『依存症がよくわかる本・家族はどうすればよいか?』主婦の友社2017年

・長坂和則著『精神保健福祉士国家試験 専門科目キーワード』へるす出版2021年

・厚生省ホームページ.“依存症についてもっと知りたい方へ”.(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000149274.html)(参照年月日:2022年5月4日)

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