当事者主体の支援を実現するためのポイントは介入しすぎない「最小限の介入」とそのひとらしさを尊重する「権利擁護」の2点であると考えています。
最小限の介入としてアンソニーやコーエンの定義があります。手法は異なりますが「精神障害のリハビリテーションが、病棟やデイケア等限定された場所で行われるものでないことを示唆しており、精神科リハビリテーション(clinical rehabilitation)を「本人の意思によって決定され、継続的かつ専門的介入が最小限に抑えられた環境の中で、うまく生活する能力を増加させるための、精神障害者に対する援助」」1)と定義づけています。これは近年の “病院から地域へ”という流れでも表れていると考えます。つまり医学モデルと呼ばれる支援から生活モデルと呼ばれる支援に移行する表れです。ICFによれば、医学モデルとは、障害を個人の問題としてとらえ、病気・外傷などから直接的に生じるものであり、専門家による個別的な治療という型で医療などの援助を必要とするモデルです。日本では従来このモデルを優先してきました。背景には1950年代半ばから向精神病薬の使用開始やレクリエーション療法など相まって、当事者の社会復帰の可能性が高まったためでしょう。但し薬漬けと呼ばれるような治療の要因の一つでもありました。これに対して生活モデルとは福祉の立場から当事者を主体とした社会復帰・社会参加促進モデルです。歴史的及び法的な後押しとして1995年に精神保健法から精神保健及び精神障害者福祉に関する法律(精神保健福祉法)へと改定された目的条文に「精神障害者等の自立と社会参加促進のための援助」が明記されたことが大きいでしょう。
権利擁護はリカバリー、エンパワメント、ストレングス、レジリエンスといったリハビリテーションにおける理念や技術を理解し実行することが重要と考えます。当事者との関わりの中でストレングスを見出し、当事者自らニーズや権利に気づきをもたらすことが大切です。ここで示すストレングスとは本人の好みや長所といったことを指し、リカバリーとは単に治癒や回復との意味ではなく、障害を受け入れながら社会生活と向き合い、自立を試みることと解します。また、エンパワメントとは権限譲渡による個人の成長促進などの意味に使用されることもありますが、ここでは自分自身の持てる力を高め、課題を解決していくことと解します。レジリエンスとは障害に抵抗できる力です。
これらをまとめた事例が北海道浦河町にある精神障害等をかかえた当事者の地域活動拠点である「べてるの家」でしょう。最小限の介入の根拠は、べてるの基本理念のひとつの非援助であり、「援助とはそもそも人がやりたくないことを決して押し付けないということだ。」2)としています。また、「病気を語るのではなく、自分の「弱さ」や課題を語る。そういう問題だらけの自分を受け入れ、自分と和解したところで、助けてほしいといえるようになったとき、人は変わることができる。誰もがそうなるわけではなく、またできるわけでもないが、そこに「いわゆる治すこと」とは別の道が開けている。」3)「専門家が当事者の上に立って問題を解決する、あるいは問題解決の指導をするという形をとらない。だれもが当事者と対等の立場に立ち、当事者をほめ、励まし、応援する。」4)はまさにリカバリー、エンパワメント、ストレングスといった理念や技術の理解であり権利擁護といえるでしょう。
まとめると、介入を最小限に抑えることで「精神障害者と置かれている環境全体の中で、「生活のしづらさ」と生活問題のかかわりをとらえ、精神障害者自体が主体的に解決・緩和できるように支援すること」5)と、精神保健福祉士の倫理綱領「倫理原則1.クライエントに対する責務 精神保健福祉士は、クライエントの基本的人権を尊重し、個人としての尊厳、法の下の平等、健康で文化的な生活を営む権利を擁護する」6)とある通り、権利擁護が必要と考えます。
[引用文献]
- 精神保健福祉士養成セミナー編集委員会編集『精神保健福祉の理論と相談援助の展開Ⅱ-精神保健福祉におけるリハビリテーション』へるす出版2021年P26
- 同上P65
- 精神保健福祉士養成セミナー編集委員会編集『精神保健福祉の理論と相談援助の展開Ⅱ-精神保健福祉におけるリハビリテーション』へるす出版2021年P22
- 精神保健福祉士の倫理綱領 https://www.jamhsw.or.jp/syokai/rinri/japsw.htm (2022年6月11日)
[参考文献]
・精神保健福祉士養成セミナー編集委員会編集『精神保健福祉の理論と相談援助の展開Ⅱ-精神保健福祉におけるリハビリテーション』へるす出版2021年
・精神保健福祉士養成セミナー編集委員会編集『精神保健福祉の理論と相談援助の展開Ⅰ-精神保健福祉におけるリハビリテーション』へるす出版2020年
・福祉臨床シリーズ編集委員会編『精神障害者の生活支援システム』弘文堂2018年
・福祉臨床シリーズ編集委員会編『精神保健福祉士相談援助の基盤(基礎)』弘文堂2012年
・福祉臨床シリーズ編集委員会編『精神保健福祉士相談援助の基盤(専門)』弘文堂2017年
・社会福祉士養成講座編集委員会編集『障害者に対する支援と障害者自立支援』中央法規出版2019年
・中村かれん著『クレイジー・イン・ジャパン』医学書院2014年
・斉藤道夫『治したくないひがし町診療所の日々』みすず書房2020年