メンタルヘルス

職場のメンタルヘルス対策

はじめに

 職場でのメンタルヘルス対策として厚生労働省では、労働者の心の健康の保持増進のための指針で4つのメンタルヘルスケアの推進をしています。4つとは、労働者自身がストレスや心の健康について理解し、自らのストレスを予防、軽減・対処する「セルフケア」、管理者が、相談対応を行う「ラインによるケア」、事業場内の産業医等事業場内産業保健スタッフ等が関与して推進支援を行う「事業場内産業保健スタッフ等によるケア」、事業場外の資源を活用する「事業場外資源によるケア」です。

健康の3要素

 メンタルヘルス対策として「睡眠・休養、食事と適度な運動(健康の3要素)」1)を確保することがこころの健康回復に必要であると同時に、逆に欠けると不調が起こる可能性が高まると考えられています。そのため、見方によっては事業主による労働時間管理もカギとなるでしょう。また、厚生労働省では「社員の抱える問題、職場の抱える人間関係などの問題を個人的問題として処理して来た日本の企業でも、これらの問題が出現したときの対応コストをリスクマネジメントとして考え、あるいは、さらに一歩進んでCSR(企業の社会的責任)の一貫と考え、EAPを導入する企業が増えてきています。」2)としています。EAPは従来は従業員のメンタルヘルス不調対策と考えられていました。しかし、昨今ではハラスメントや健康問題、家庭環境、経済的な不安(借金問題)やアディクション問題などさまざまな相談に対応できるよう、医師や弁護士、心理カウンセラーを配置し対応するサービスも存在します。これにより労働者が抱えている心理的不安が除かれることで、事業の生産性が向上するとも考えられているため、「事業場外資源によるケア」としてのEAPの積極的な活用は有効です。

心の健康の保持増進のための指針

 労働者の心の健康の保持増進のための指針では『メンタルヘルス不調を未然に防止する「一次予防」、メンタルヘルス不調を早期に発見し、適切な措置を行う「二次予防」及びメンタルヘルス不調となった労働者の職場復帰を支援等を行う「三次予防」が円滑に行われるようにする必要がある。』3)としています。ストレスチェック制度を総合的な取組の中に位置付けることが重要としていますが、課題として2点考えなければなりません。義務対象事業場が限られていることと、資源が少ない小規模の事業者への対応です。

小規模な事業者は

 50名を超える従業員がいても、事業場が50名未満に分割されるような多店舗展開している飲食・小売業の事業場では義務が生じません。また、今後50名未満でも義務化された場合、資源が少ない小規模な事業者は制度の運用や外部資源の活用は困難です。指針でも小規模事業場におけるメンタルヘルスケアの取組の留意事項として次のように述べています。『常時使用する労働者が50人未満の小規模事業場では、メンタルヘルスケアを推進するに当たって、必要な事業場内産業保健スタッフが確保できない場合が多い。このような事業場では、事業者は、衛生推進者又は安全衛生推進者を事業場内メンタルヘルス推進担当者として選任するとともに、地域産業保健センター等の事業場外資源の提供する支援等を積極的に活用し取り組むことが望ましい。また、メンタルヘルスケアの実施に当たっては、事業者はメンタルヘルスケアを積極的に実施することを表明し、セルフケア、ラインによるケアを中心として、実施可能なところから着実に取組を進めることが望ましい。』4)とています。これに対し具体的には、こころの耳で「厚生労働省版ストレスチェック実施プログラム」を無料で配布しています。但し、小規模事業者には知られていないのが現状です。ぜひ厚生労働省やメンタルヘルスに関わる団体等をはじめ、社労士を通じでお客様への積極的な周知活動を期待したいと思います。

 以上、小規模事業者も積極的に公的資源を活用し、少しでも多くの労働者がこころの不調を訴えることなく安全で働ける環境が整備される社会の実現を望みます。

[引用文献]

  1. 労働者の心の健康の保持増進のための指針第9項(改正平27.11.30公示第6号)

[参考文献]

・精神保健福祉士養成セミナー編集委員会編集『精神保健学』へるす出版2019年

・精神保健福祉士養成セミナー編集委員会編集『精神医学-精神疾患とその治療』へるす出版2017年

・厚生労働省 生活習慣病予防のための健康情報サイト「e-ヘルスネット」https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/dictionary/heart/yk-085.html(2022年7月16日時点)

・厚生省HP働く人のメンタルヘルス・ポータルサイト「こころの耳」https://kokoro.mhlw.go.jp/(2022年7月16日時点)

・久保修一『職場にいるメンタル疾患者・発達障害者と上手に付き合う方法』日本法令2018年

・福田真也『働く人のこころのケア・ガイドブック―会社を休むときのQ&A』金剛出版2019年

・刎田文記 江森智之著『成功する精神障害者雇用』第一法規2017年

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