精神保健福祉

統合失調症について

統合失調症について「歴史」「疫学」「病因」「症状」「治療法」について、掘り下げながら解説をしたいと思っております。

歴史について

統合失調症は2002年、日本精神神経学会にて「精神分裂病」を「統合失調症」と呼び変えることによって確立されました。それ以前の「精神分裂病」自体も「早発痴呆」という名称から改名されたものです。現在の統合失調症に相当する病態が明確に記述されたのは、1899年のドイツのクレペリンの「早発痴呆」が最初でした。当時は大学に長期入院を設け研究対象とし、拘束など行い人としての扱いに欠けるものでした。その後1908年にスイスの精神医学者ブロイラーによって「連想分裂も持った精神障害のグループ」としてスキゾフレニアschizophrenia(ドイツ語ではSchizophrenien)を提案することによって、早発痴呆という名称は廃止されましたが、病気のモデルとしてはなお早発痴呆の影響が強く残っていました。日本の転換期は昭和39年に起こったライシャワー事件でしょう。結果、収容型の施設が増え、投薬を基礎とした治療が進歩しました。他方では諸外国では地域医療が発展していました。薬物療法の進歩は、地域精神医療をさらに推し進めており、心理社会的な治療、支援の整備も進んでいます。家族に対する心理教育やサポートが、患者の状態像の改善や再発率の低下につながることも見いだされました。また、急性期病棟から自宅、地域に戻るまでの間に種々の治療、滞在施設を用意し、その後も訪問活動を続けることによって、患者の社会生活の支援が可能であるようになりました。

疫学

 日本での統合失調症の患者数は約80万人といわれています。また、世界各国の報告をまとめると、生涯のうちに統合失調症を発症する人は全体の人口の0.7%と推計されています。遺伝素因ついては片親が統合失調症の場合の発症率は10~15%あり、病状脆弱性に関しては遺伝子以外で精神発達障害仮説が提起されています。

病因について

病因はまだ解明されていません。一卵性双生児での一致率が50%であり、100%でないことから遺伝以外の要素も重要とされています。つまり「「遺伝と環境による複合的病因」の相互作用で起こる多因子病」1)と考えられています。発症は通常思春期以降のため、「「出生後から思春期までの細胞レベルでの神経発達」に影響を与えて時間をかけて基本障害が出来上がる」1)と推定されています。この神経発達障害は「ある特定の神経ネットワークの異常であると推定されます。前頭前野皮質・視床・小脳ネットワークの障害仮説、背外側前頭前野・内側側頭葉の機能的結合障害仮説、前頭葉・線条体・視床ネットワークの障害仮説」などが提唱されています。また、社会的・職業的な機能障害が、陰性症状や陽性症状以上に認知障害によって規定されているという報告」1)がふえています。 複合的病因としては心理的ストレスが挙げられます。「遺伝的に規定された発症脆弱性に何らかの心理的ストレスが加わって脳内の生科学的異常が惹起される」とされており、現在の有力仮説としては脆弱性-ストレスモデルがあります。

症状の状態

気分障害と異なり一定の身体症状は見られます。一例としては長期にわたる強い頭痛や全身のだるさ、不眠などがあります。精神病状としては主に次の7症状があります。1.幻覚(幻聴や体感幻覚)、2.思考障害(連合弛緩や被害妄想・誇大妄想などの妄想)、3.自我意識の障害(誰かに操られているという能動性の障害など)、4.意欲・行動の障害(意識の減退や緊張病性昏迷、緊張病性興奮など)、5.感情の障害(感情鈍麻や感情の不調和)、6.自閉、7.疎通性などの障害が挙げられます。

治療方法

身体療法、精神療法、社会復帰療法などがあります。身体療法で用いられるものには薬物療法、電気けいれん療法があります。治療では陽性病状と陰性病状のどちらが優勢かを大まかに判断して選択する必要があります。薬物治療で特筆すべき点は副作用や依存障害か挙げられます。減薬の過程で精神障害のような症状が現れてしまい、逆にそのことで薬がきいていたと誤認してしまい、薬から抜け出せない状況になることがあります。副作用の中には代謝異常による血糖値やコレステロール値の急上昇などもあげられます。国内の投薬状況については1種類の抗精神病薬で治療する入院患者の割合(単剤化率)は平均44%、施設数では30%大の病院がもっとも多いとされており、世界的には単剤化率は70%~90%とされているので、日本の精神科医の薬物処方依存ぶりが突出していることが分かります。5)

精神治療とは心理的交流をベースとして当事者の精神活動に変化をもたらす治療法です。言語の使用の有無や集団か個人かなどさまざまなパターンがあり、認知行動療法や訓練療法などが挙げられます。6)また、音楽療法という治療法もあります。統合失調症者の演奏には、テンポが速く常に加速する、自己のテンポに固執する、拍子から全く離れるなどが挙げられますが、治療を繰り返すことで質的側面に強く影響するものとして、注目されています。3)但し現在のところ「現代西洋医学領域において、科学的未検証および臨床未応用の医学・医療体系の総称」と定義され、現代的な意味での医療とは区別4)。されています。また、統合失調症の病態及び経過は多様であり、急性・慢性に加え、進行性に経過するもの、波状に経過するもの、血管状態を呈するものがあり、一部は人格水準以下に至るものもあります。そのため精神保健及び精神障害者福祉に関する法律(以下同法)第1条の目的条文では、「その社会復帰の促進及びその自立と社会経済活動への参加の促進のために必要な援助を行い」とあるとおり、治療以外のSST等のリハビリや地域障害者職業センターをはじめとした行政のサポートが求められることでしょう。

【引用文献】

『精神神経学雑誌 = Psychiatria et neurologia Japonica1092号』日本精神神経学会2007年 P189-P193松岡洋夫著『専門医制度委員会企画(10)統合失調症』

【参考文献】

版20171)精神保健福祉士養成セミナー編集委員会編集『精神医学-精神疾患とその治療』へるす出年

2)計見一雄著『統合失調症あるいは精神分裂病』講談社2017年

3)阪上正巳著『音楽療法と精神医学』人間と歴史社2015年

4)音楽療法:フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』2022年5月3日https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%9F%B3%E6%A5%BD%E7%99%82%E6%B3%95

4)井原裕・松本俊彦著、よくしゃべる精神科医の会編『くすりにたよらない精神医学』日本論評社2013年

5)山下格著『精神医学ハンドブック』日本論評社2010年

6)糸川昌成監修『統合失調症からの回復を早める本』法研2013年



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